小説「時を駈ける少女」
- 1 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/03(土)
12:20
- 「保田圭と」
「後藤真希の」
『プッチモニ、ダァ〜イバ〜〜イェー』
「素コンブを食べながらお送りしてま〜す」
「なんだよそれ」
市井ちゃんが、娘。を抜けて一ヶ月が過ぎた。
10人体制の娘。にもすぐに慣れるだろー、って思ってたけど、実際はそうは
いかなかった。どうしてだろう?
こー言っちゃ悪いけど、彩さんの時は(悲しいのは悲しかったけど)別に引き
ずることもなかったのに。
ラジオの収録も、相変わらず、2人でギクシャクしている。
- 2 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/03(土)
12:21
- (市井ちゃんがいたら、ここはなんて言うだろう)
(市井ちゃんなら、どうフォローしてくれるだろう)
「そこんとこ、後藤的にはどうよ?」
ぼーっ、としてた。
圭ちゃんからの問いかけをよく聞いてなくて、へ? て顔で返した。
沈黙が続いた。
ディレクターが慌てて曲をかけた。『バクバクKISS』だった。ちょっと
笑った。
「トイレ行って来ま〜す。すぐ戻りますから」
曲の間に、席を立った。圭ちゃんが何か言いたそうだったけど、わざと無視
して、スタジオを出た。
- 3 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/03(土)
12:22
- ふっ、と(このまま消えてしまいたい)って思った。
楽屋に戻る。大きな鏡の前で、自分の顔を見る。
(あんましいい顔してないな〜)
こんな顔、市井ちゃんに見せられない。
私は、ここで何をしているんだろう?
私は、どこにむかって歩いているんだろう?
(市井ちゃ〜ん、私、どーしたらいいか分かんないよお)
難しいことを考えると頭痛くなってきた。
しかも眠い。すっごく眠い。
もう、スタジオに戻んなきゃ……
……。
きゅ〜……
◇
- 4 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/03(土)
12:22
- 「後藤さん、後藤さ〜ん」
スタッフの呼ぶ声に、がばっ、と跳ね起きた。
しまった、完全に寝てしまっていたっ!!
「わあああ」
と、楽屋を飛び出しかけて、
鏡をみて、凍り付いた。
金髪だ。
金髪の後藤真希が、鏡の向こうからこっちを見ていた。
「な、なにこれ、なんのイタズラ?」
横には、カメラクルーがいる。私が寝ていたところをずっと撮影していた
らしい。
(スターどっきり?)
一瞬、そう思ったが、違う。彼らは、アサヤンのスタッフだった。
- 5 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/03(土)
12:23
- 「???」
昔は、娘。にぴったり張り付いて毎週放送していたアサヤンも、最近は改編とか
なんとかで、こっちには来なくなってしまった。気楽にはなったけど、
少し淋しかった。事務所がどーのこーの言ってたけど、よくは分からない。
「懐かしいですね〜。どうしたんですか?」
「寝てるところ、撮っちゃったよ。全然緊張してないね」
「緊張? どうしてですか?」
「これから、ジャケ写して、そのあと、先輩たちが来るから。ずっとカメラ回
ってるけど、気にしないでね」
「そりゃあ……」
慣れてますから、と言いかけて、そろそろ、違和感に気付いた。ここは、さっき
までの、楽屋とは別の場所だ。
メイクさんが私を呼びに来て、私は、よろしくお願いします、と挨拶し、
カメラのクルーさんたちにも頭を下げて、楽屋を出た。
「素人なのに、現場慣れしてるな」
なんてアサヤンスタッフの話し声が聞こえた。素人?? 何言ってんだろ。
- 6 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/03(土)
12:31
- 衣装さんが着せてくれた、キラキラした、ピンクの、ワンピース。
それを見て、分かった。ジャケ写って「Loveマシーン」のことだったんだ。
すっごい昔みたいな気がするけど、去年の、8月、なんだよなー。
あの時は、撮影中に、みんなと合流したはず。
(そのとき、初めて市井ちゃんに会ったんだ)
ようやく、理解出来た。
夢だ。
本当の私は、まだ、楽屋で寝ているんだ。
早く起きて、ラジオの収録に戻んなきゃ……と一瞬戻ったけど、
(……撮影中に、みんなと、合流した……)
実際のところ、ラジオの収録なんてもうどうでも良かった。
すっぽかすことになるなら、別にそれでもいい。
それよりも、夢の中ででも、市井ちゃんに逢える方がいいや。なんかこっちの
方が楽しいし。
私は、カメラマンさんの指示で、視線を向けたり笑ったりしながら、みんな
を待った。
- 7 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/03(土)
12:32
- 当時は、舞い上がってて何も分からなかったけど、こうして落ち着いて見て
みると、スタッフさんたちが緊張をほぐそうといろいろと気を使ってくれてる
のが分かる。
「はーい、そう、その感じね」
「可愛く撮って下さいよ〜」
スタッフさんたちから笑い声があがる。いい雰囲気だ。
あの時は、途中で娘。たちが来ちゃって、一時撮影は中断させてしまった。
今日はサクサクと進んだせいで、私一人での撮影は全部終わった。
「お疲れさまでした〜ありがとうございました〜」
スタッフの一人一人に、笑顔でお礼を言う。あいぼんやののも、これくらいは
ちゃんとやって欲しいんだけどなあ、とふと思う。
「こりゃ凄いな。凄い新人が出てきたもんだ」
スタッフさんたちの会話が耳に届く。
- 8 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/03(土)
12:33
- (この程度で凄い新人も何もねえよ、なんだかなあ)なーんてプロ気取りで
おすまししながら、スタジオ内をキョロキョロ見回す。いた。
「和田さ〜ん」
パタパタと靴を鳴らして走る。
「先輩の皆さん、いつ到着するんですか?」
(市井ちゃんには、いつ逢えるの?)
「ん……ああ、もうすぐだよ」
怯んだ感じで言った。和田さんが耳から外したイヤホンからは、ラブマの
カラオケが流れてきた。
急に思い出した。
「あー、和田さん、この曲百万枚売れたら……」
娘。全員連れて、十万円の料亭に連れてってくれる、って約束したのに──
と言いかけた。やばいやばい。
「ん? ああ、この曲ね。新機軸だよ」
(新機軸って……私が入ってからは、こーゆー曲しか知らないんだよね)
「やっぱ、しっとりした曲より、元気になれる曲の方がヒットしますからね。
♪ニッポンの未来は〜、ですよ」
和田さんは驚いたような顔で何か言おうとしたけど、その時、扉の向こう
で真里っぺの大きな笑い声が聞こえてきたので、私はそれでは、と言って、
出入り口まで走った。
- 9 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/03(土)
12:33
- 待ちきれず、こっちから扉を開けた。
「わっ」
向こうもちょうど取っ手に手をかけていたらしく、驚いた声をあげた。
(あ〜裕ちゃんだ〜〜)
なんか、一年前なだけなはずなのに、若い。
慌てて、場所をあけた。値踏みするような視線が、私に突き刺さった。
(こっわ〜、威嚇してるよこの人)
だから、元ヤン疑惑が生まれるんだよねー、本当はかおりんがヤンキー
だったりするんだけどねー、などという内心はおくびにも出さず、
ニコニコしながらメンバーを迎えた。
向こうの方が、緊張しているようだった。
市井ちゃんも、そこにいた。
久々の再開に、心臓がバクバクいい始めた。
市井ちゃんの表情は、硬い。仕方ないか、あっちは初対面なんだし。
でも、少し淋しいな。
- 10 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/03(土)
12:34
- 「ね、ね? 貴方が新メンバー?」
緊張していない人が約一名。真里っぺだ。
「はーい、後藤真希です。13才です。よろしくお願いしますっ」
「私、矢口真里です、よろしくお願いしますっ」
2人で、キャハハ、と笑った。♪金髪〜金髪〜、って歌いながら、真里っぺは
私の髪に触った。
あっ、と思って、私は真顔に戻った。そう言えば、アサヤンのスタッフさ
んたちがカメラを回してるはずだ。挨拶するシーンも撮りたいだろう。
振り返ると、カメラを構えてちゃんとそこにいた。
「嬉しくて、ついはしゃいじゃいましたー。TVの構成考えないでごめんなさーい」
カメラさんたちがどっ、と笑う。
「どうします? もう一度、入ってくるところから撮り直します?」
私は、スタッフさんたちに提案した。
裕ちゃんが、目を丸くしていた。
- 11 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/03(土)
12:35
- 後から市井ちゃんに聞いた話なんだけど、市井ちゃんは裕ちゃんに呼び出さ
れて、こんなことを言われたみたい。
「な、沙耶香。この前な、あんたを後藤の教育係にしよういうて、和田さんや
つんくさんと話しててん」
「私、ですか」
「そや。あんたももう先輩なんやから、甘えてもいられへんやろ。ええ勉強にも
なるやろし、って最初は思うてたんやけどな──後藤、あれ、てごわいな。
ジャケット写真なんか、普通新人は後ろやで。そやのに、和田さん、後藤が真ん中
のバージョン撮らしとったやろ、あれ、なんか考えあるで」
「……新人、って感じじゃないですね。私の時と、全然違う」
「あの落ち着きよう、13の素人とちゃうなあ。どないする? 和田さんにゆうて、
教育係は石黒辺りに──」
「私、やります。って云うか、やらせて下さい」
「……それやったら、ええねんけど。無理や思うたら、すぐに言うてきいや」
そんなやりとりを後から聞いた私は、汗……だった。だって、本当は一年以上の
キャリアがあるんだし、勝手も分かってるから、落ち着いてて当然なんだよね。
でも、市井ちゃんは、すっごく私にコンプレックス感じてたみたい。それが原因で、
後になって、あんなことになってしまうんだよねえ。
- 12 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/03(土)
13:20
- もとネタの時を翔ける少女ってこんな話だったっけ?
- 13 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/03(土)
13:21
- 個人的に好きなタイプの話だ、続き楽しみ
- 14 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/03(土)
13:21
- ラベンダーの香りで1日未満のわずかな時を駈けていたと思う。
それはそうと、これ、すごく面白いですね。
- 15 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/03(土)
13:23
- >14
そうだっけ?自分が過去にいくんじゃなくて
未来の人が過去にくるような話では?
- 16 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/03(土)
13:24
- 期待できそうだな。
最近くだらない小説しかなかったからな。
- 17 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/03(土)
13:26
- >15 未来人は原田知世じゃなく、その彼氏の少年だったと思う。
- 18 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/03(土)
13:28
- けっこうおもしろいのであげ
- 19 名前: 15>17 投稿日: 2000/06/03(土)
13:33
- そうだった。
それから主演女優は原田知世だったんだ。
オレがみたのは内田有紀だったけど。
- 20 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/03(土)
13:36
- >19 内田は見てないが原田版は名作だぜ。つまんないかもしれないけど、雰囲気がいい。
- 21 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/03(土)
15:18
- 京極はだれだ?期待してます
- 22 名前: 名無しさんLFR 投稿日: 2000/06/03(土)
15:43
- おもしろいです!
作者さん頑張って下さいよ!!
- 23 名前: 名無しさんLFR 投稿日: 2000/06/03(土)
15:45
- あっ、さげたほうがいいんでしょうか??
- 24 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/03(土)
15:50
- 感想もアップもさげでやれ
- 25 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/03(土)
20:58
- アップしてね
- 26 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/03(土)
21:46
- おもろい!!続きまつよ。
- 27 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/03(土)
21:53
- 続き読みてぇー!
- 28 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/03(土)
23:14
- 同名の映画とは特に関係ないです。
ただ、なんとなくイメージが良かったから。
では、続きます。
(っていうか、夜は書き込めねえ〜保田)
- 29 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/03(土)
23:18
夜、私は部屋で悶々としていた。
いつまでも、夢が覚めないのだ。
(もしかしたら、ここは、本当に過去の世界なのでは)
そう思い始めた時には、もう窓の外は明るくなっていた。
翌日。
早々に、ラブマの歌入れが始まった。
(きゅ〜)
「ちょっと、後藤、後藤」
身体を揺すられて、ふにゃ、と目を覚ます。スタジオの控え室で、ぐっすり
眠ってしまっていた。
「わあ、市井ちゃんだ」
「市井、ちゃん……?」
市井ちゃんは、一瞬、茫然とした。世にも珍しい、市井ちゃの点目だ。
かっわいい!!
「あのさあ、先輩たち見て、何も感じない?」
無理して、怖い表情を作っているのが分かる。……今、私は指導されてんのかな?
- 30 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/03(土)
23:21
「あ〜」
みんなは、貰ったばかりの楽曲を聴きながら、歌詞を見、声を出して、自分の
中でイメージを膨らませる作業中だった。
行為に没頭しているように見えるけど、こっちのやりとりをさり気なく気に
している感じがする。
「ごめんごめん、昨日、寝てなかったんだ。でも、この歌はもうマスターして
るから、大丈夫だよ」
「マスター、した?」
「うん」
「それ、違うと思う」
がたん、と立ち上がったのは、かおりんだった。
「後藤はさ、マスターした、って思ったかも知んないんだけど、そこから、
もっと歌を聴いて、歌を理解して、歌の心になって、ウチらの歌を聴いて
くれる人たちにも伝わるようになるまで、何回も何回も、練習して、って
それがプロってもんなのよ」
マスターした、ってんなら、ちょっと歌ってみ、とかおりんは私を促した。
私は、フリつきで、サビの部分を熱唱した。
「え〜、なにその手つき、かおりにも教えて」
- 31 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/03(土)
23:24
- 「この指は、ラブマシーンのエルを表してるの。そんで、ウォウ×4の時に、
前に突き出していって」
「ふんふん、面白いね〜」
「で、イェイ×4の時は、頭の上で、横に振るの」
「よ〜し、2人でやってみよ〜」
「せぇーの、『♪ニッポンの未来は(ウォウ×4)せっかいがうらやむ
(イェイ×4)』」
後ろに忍び寄っていた真里っぺもこっそり振りを合わせてきたので、3人での
ラブマがバッチリ決まった。3人で、いぇーい、と笑った。
「ちょっと、いい加減にしなよ」
圭ちゃんが、大きな声で云った。しまった、調子に乗りすぎた。
かおりんと真里っぺと3人で、しゅん、と小さくなった。
「市井も市井だよ。教育係なんだから、ちゃんと指導しなよ」
(私のせいで、市井ちゃんも怒られちゃった……ごめんッ)
「いや、おもろい、おもろいで」
パチ、パチ、パチ、と拍手の音がした。
「あ、つんくさん、お早うございます」
「お早うございま〜す」
- 32 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/03(土)
23:28
「おう、練習続けて続けて。ほんま、後藤はおもろいなあ。その振り、
自分で歌イメージしながら考えたんか?」
あ……まだ、夏先生から振りの指導受けてなかったんだっけ……。じゃあ、
元々知ってました、ってのは不自然だよね。
「ええ、まあ」
「ふ〜ん。今回の振り付けは、まゆみに一任してるんやけど、そんな感じの方
が、よさげやな」
とかなんとか、口の中でブツブツと呟いていた。
「まあええわ。よし、じゃあマスターしてる、っていう後藤からブースに入り。
歌入れ本番行くで」
そう云って背を向けたつんくさんに、市井ちゃんが、
「えっ、もうなんですか? 後藤は、まだこの世界のことが良く分かってな
くて、だから、先輩たちのやり方をよく見せてから」
「ええからええから。市井、お前、うかうかしてたら、こいつに足下すくわれるで」
「はい……」
嬉しかった。市井ちゃが、私を気遣ってくれてる。
(大丈夫だよ、ちゃんとやれるから)
そっと、市井ちゃんに耳打ちする。でも、私を見た市井ちゃんの表情は強ばっていた。
- 33 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/03(土)
23:32
「♪いつ火がつくのかヅァイナマイッ……恋はヅァイナマイッ!」
「そうっ!『ヅァ』イナマイッ、の方がええなあ。後藤、分かってるやないか」
つんくさんは、楽譜に何か書き込んだ。
「後藤、お前、身体でリズムとるんはエエけど、ヘンな振り入ってるよなあ。
なんや、全部通しでマイ振り付け考えてたんか」
どうしても、じっとして歌えない。自然に、身体が小さく振りの動きをして
しまうのだ。
「後藤、お前、ほんまエエで。エエなあ」
いつもは何テイクも録らされるんだけど、歌い慣れたラブマ、ということも
あって、すぐに録音は終わった。娘。8人の中で、私の収録が一番短かった。
ヒマになったので、真里っぺにセクシービームのポーズを教えたり(大ウケだった)
なっちとピスタチオ食べたり(すっごく痩せてた)彩さんに付き合ってる人のことを
こっそり探り入れたり(しらを切られたけど、知ってるんだよね〜♪)して遊んでた。
- 34 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/03(土)
23:35
ちょっと青い顔をして、ブースから出てきた市井ちゃんを見つけた。
「あっ、市井ちゃ〜ん、ちょっといい?」
私はパタパタと市井ちゃんに走り寄った。
廊下の隅で、
「さっき、本当にゴメンね。私のせいで、市井ちゃんまで怒られちゃって。
市井ちゃん、私の教育係だから、私が自分勝手したら、市井ちゃんにまで迷惑
かかっちゃうね。ほんと、ゴメン」
「教育係なんて……」
市井ちゃんは、私と目を合わせなかった。マズイ、市井ちゃんまで、怒ってる?
「私、後藤に何も教えることなんてないよ。後藤の方が、ずっとうまくやって
るよ。私なんて、全然ダメだよ」
げげっ、なんか知らないけど、市井ちゃん、落ち込んでる。
「市井ちゃん、プッチのリーダーなんだから、そんなこと言ってちゃダメだよ」
「……プッチ?」
あわわわ、まだプッチじゃなかったっけ。
- 35 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/03(土)
23:39
と、人の声が近づいてきた。何となく気まずい私たちは、物陰に隠れた。
つんくさんと、和田さんだった。
「彼女、つんくさんと同じセンス持ってますね」
「そやろ、後藤がやることいちいちピーン、と来るねん。彼女な、確かに増員候補の
四人の中ではズバ抜けてる、思うたけど、こんなにやとは思わんかったわ。これ、
後藤のパートもっと増やしても行けるんちゃう?」
「いけるんじゃないかな」
「振り付けもな、まゆみが考えてたやつ、もっとスタイリッシュやってんけどな、
後藤がやってた、ちょっとバタくさいやつに変えよ思てんねん。この曲、イケ
るで。なんか、こう、手応えあるし」
「そう言えば、後藤、ジャケ写の時に、百万枚売れたら、何かして欲しい、みたい
なこと言ったなあヒャヒャヒャ」
「そりゃあ、頼もしいな。売れるヤツは、最初からそんな感じや」
2人でははは、と笑っている。そーかー、私、ラブマじゃあコーラスだけだった
のに、ソロパートも入れてくれるんだ。ちょこっと嬉しいな。
(ねね、あんなこと言ってるよ)
そう市井ちゃんに言おうとして、振り向くと、もうそこに市井ちゃんはいなかった。
- 36 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/03(土)
23:42
- いきなりミスだ〜
>彼女な、確かに増員候補の四人の中ではズバ抜けてる
増員候補は五人でした〜。そーゆー訳です。
- 37 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/03(土)
23:47
夜。
もぞもぞと服を脱いで、パジャマに着替える。
ベッドに潜り込んで、今日一日を振り返る。
(私は、未来を知ってる)
(元々は、ラブマで、私のパートなんて無かったはずなのに、気がついたら、私
の個人パートが一番多くなってる。少しずつ、元いた世界と状況が変わってきてる)
(なら)
(私、市井ちゃんの脱退を、阻止出来るかも知れない)
なんだか、ワクワクしてきた。
ここで、目を閉じて、次の日起きたら元の時間に戻ってしまったら、と少し心配
しながら、眠りについた。
(第1部、終了。第2部に続く)
※蛇足。
後藤は、自分のパートがない、と言ってるけど、これは「後藤が元いた世界」
での話です。もし、貴方が後藤中心のジャケット写真、後藤ソロのパートが
多いラブマを聴いているとしたら、それは後藤干渉後のバージョンなのです。
- 38 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/04(日)
00:14
- すっげー、おもしろい。俺も別スレに小説書いてるけど、
見習いたいもんです。お互い、がんばりましょーや。
- 39 名前: 名無しさんLFR 投稿日: 2000/06/04(日)
00:57
- えっ?作者さん。じゃあ今の、現在のラブマシーンは
後藤が過去に戻ったことによってできたって
ことにするってことですか?
- 40 名前: (水物) 投稿日: 2000/06/04(日)
01:22
- なんか「時をかける少女」というよりも「バック・トゥ・ザ・フューチャー」みたいやな。
- 41 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/04(日)
01:33
- めちゃめちゃ面白い。ブックマークしとこう。第2部はプッチ編ですか?
元いた世界の後藤の話も面白そうだなあ……
- 42 名前: 客なっち 投稿日: 2000/06/04(日)
02:44
- 面白いです。
- 43 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/04(日)
03:27
- めっちゃ面白いです。
思わずLOVEマ手許に持ってきてにやっとしてしまいました。
- 44 名前: 名無し読者 投稿日: 2000/06/04(日)
06:02
- 新連載おめでとうございます。
名作集スレッドの方であげさせていただきます。
- 45 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/04(日)
06:42
- コテハンもいいね。もちろん、本編もいいっす。
- 46 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/04(日)
10:36
- 結局、市井は卒業するってこと? なんか悲しい。
- 47 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/04(日)
13:46
- せめて話の中だけでも市井の卒業を阻止してくれぇ〜(涙)
- 48 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/04(日)
14:03
- 第2部です。
土日で、原稿用紙換算で50枚近く書いたけど、
小説スレッドって、どれくらいのペースでみなさん書かれてる
んですかね?
- 49 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/04(日)
14:04
LOVEマシーン9月9日発売。
私は、14才になった。髪の色を黒に戻した。
「なんかさぁ、なっち、ショップ見に行ったんだけど、売り切れで無かったべさ」
「つんくさんと浜崎あゆみのデュエット、とりあえず、あれよりはトータル売れ
とかんとな」
「裕ちゃん、嫉妬〜」
「そんなんとちゃうわ」
「でもさぁ、今回の曲って、すっごい挑戦な訳じゃん。歴代の娘。の曲に比べて、
どれくらいさあ、聴いてくれる人たちが気に入ってくれるのか、そこいら辺が
心配なわけよ」
「大丈夫ですよ〜。これから、もっともっと上行きますから」
「上?」
メンバーの視線が集まる。
いつも、予言めいた発言をしてるんで、なんか私がそれっぽいことを言うと、
みんなが注目するようになっていた。
- 50 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/04(日)
14:05
- 「何? また何か感じるん?」
「あの〜、とりあえず、オリコン一位取って、100万枚越えます。で、紅白出場
して、その次のシングルも100万枚売れるんです。あ、その前に娘。中から別の
ユニットが出来て、そのあと、赤青黄のシャッフル計画があって、娘。増員が──」
思いついたことをダラダラと喋った。
(それと、彩さんと、市井ちゃんの脱退……)
「なにそれー?」
「なんやよう分からんわ」
「無茶苦茶だよ後藤〜」
(プッチが結成されるのが、10月、だったねえ……市井ちゃんが、脱退を考え
始めるのも、確か、それくらいからだったって言ってたよな〜)
ミッション名『市井ちゃんの脱退をやめさせよう』は、いつ頃から発動させれば
いいんだろう。今のところ、端から見て、市井ちゃんは娘。活動に一生懸命だ。
(市井ちゃんて、いつも一生懸命なんだよ。プッチの合宿の時も熱出しても頑張
っちゃうしさ。それで、そのまま娘。も駆け抜けていこうとしちゃうんだから)
- 51 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/04(日)
14:06
- しまった〜下げそこなった〜すまない……
- 52 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/04(日)
14:07
「へへへ、一緒に寝ていい?」
米子市公会堂での新曲発表会と握手会のイベントが終わって、ホテルに戻った。
私は市井ちゃんの部屋に、枕を持って訪問した。
「ん? いいよ。どうしたの。後藤、淋しいのか。子どもだなあ」
知ってるんだ。市井ちゃん、一人じゃ寝れなくて、結局、真里っぺや圭ちゃんの
部屋に行って、一緒に寝てんだよね。許せないよね。だから、今日は後藤が一緒
に寝てあげるんだ。
「は〜い、じゃあ明日も早いから、電気消すよ〜」
私は豆球だけ残した。市井ちゃん、真っ暗なのも怖いんだよね〜可愛いよね。
「ね、後藤さ」
「うん? 何?」
「おととい、新ユニット出来る、って後藤言ってたじゃん」
「言ったよ」
「あれさ、その……信じてる訳じゃないんだけど、後藤はどうしてそう思うの」
「そう思う、って言うか……そうなるんだよ」
- 53 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/04(日)
14:08
「じゃ、さ」
「うん」
「メンバーは、誰になるの?」
「私と、市井ちゃんと、圭ちゃん」
「えっ、私も?」
「そだよ。ユニット名は『東京モーニングネットワーク』通称TMNだよ」
「マジか、それ?」
「ウソウソ。本当は、3人の名まえから1文字ずつとって『市後保』
(イチゴタモツ)」
「……」
「それもウソで、本当は『コンモニ』」
「もういいよ。オラはもう寝るよ〜」
背中向けちゃった。いや〜ホント、市井ちゃんはからかいがいがあるなあ。
楽しいなあ〜。
- 54 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/04(日)
14:10
- 市井ちゃんの背中にぴたー、と身体をくっつける。
「わあ、あっちいよ。後藤、離れろ」
「やだ」
「離れろったら」
「……やだもん」
「実力行使だ」
ゴソゴソ。
「ひゃいっ、ひゃはははははっ」
「ほ〜らほ〜ら、近づいてきたら、揉むぞ〜」
「うう……実は、童謡『さっちゃん』には、秘密の4番目の歌詞があって……」
「? 後藤、何言ってんの?」
「その歌詞っていうのが『さっちゃんはね、踏切で足を無くしたよ、だから今夜、おまえの足を貰い』──」
「うわわわ、やめろ後藤、悪い、悪かった」
「……くっついてていい?」
「わーった、わーったよ」
ふふふっ。市井ちゃんの背中、冷たくて気持ちいい。
- 55 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/04(日)
14:11
- 「それじゃあ、モームスダイバー『はじまるよ〜(しんちゃん風味)』」
3人の初レギュラー番組が始まった。
和田さんに呼び出されて、3人でラジオやれ、って言われたとき、私は
(ははあ、プッチ計画が動き出したか)なんて思ってた。市井ちゃんは
「まさか」って顔で、私を見ていた。
「宣誓。わたくしはモームスダイバー精神にのっとり、本当は保田圭
は暗くない、という事を証明する事を誓います。保田圭!」
「宣誓。わたくし市井紗耶香はモームスダイバー精神にのっとり、この
番組を2時間番組にさせちゃうくらい楽しい番組にしちゃうぞ、ってい
うのを誓います。市井紗耶香」
「宣誓。私はモームスダイバー精神にのっとり、にがうりを食べれるよう
にする事を誓います。後藤真希」
この東京FMラジオ収録の時点で、すでに3人で新ユニットを組む話は聞かされてる。
アサヤンのスタジオで、市井ちゃんの様子をこっそり見てたら、『市井沙耶香』
ってつんくさんが名まえを言ったとき、鼻の穴がぷくっ、て膨らんで、面白かった。
- 56 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/04(日)
14:13
- 10月24日。歌入れの日。
例によって、私はつんくさんからすぐにオッケーを貰った。
一番最初に、つんくさんが昔教えてくれた歌い方で軽く流してみせたら
「よし、それでいこう。ホンマ、後藤は優等生やで。俺のイメージしてること、
言われる前にやってまうねんからな」で、完了。
市井ちゃんが、それを見て、ひどく焦ってた。
これからは、少し、手を抜いて、要領悪くやってみよう。
新ユニット結成から、ちょこっとラブ発売まで、一度経験済みだったんだけど、
それでも毎日はすっごく忙しかった。
私や圭ちゃんも、一生懸命やってたんだけど、市井ちゃんの力の入れようは
異常だった。
- 57 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/04(日)
14:14
夏先生の、ダンス指導のあったその日。
「ねー市井ちゃん、合宿、やめとこうよ」
市井ちゃんの高熱がぶり返して、結局中止してしまうことは分かってる。
合宿用のマンションに向かう車の中で、私は市井ちゃんを説得しようと必死だった。
「大丈夫だよ。熱下がって来たし」
「私知ってるよ。和田さんが医者から貰って余ってた、熱冷まし貰ったんで
しょう(しかも座薬……うぷぷ、ここで笑っちゃダメだ)。市井ちゃん、
倒れちゃうよ」
「後藤、さ」
市井ちゃんは、辛そうに、シートに身体を預けている。
「後藤、ダンスレッスン、余裕あったろ?」
横目で私を見ながら、そう言った。
- 58 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/04(日)
14:14
- >48
原稿用紙50枚・・・
頭が下がります・・・
すげーよ、あんた。がんばってや!
- 59 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/04(日)
14:15
- 夏先生曰く「これまでの娘。のダンスの中でも最高難度」のちょこっとLOVE。
私は、もう身体が覚えてたんだけど、なんか簡単にこなすと、市井ちゃんが
ライバル心燃やしちゃうんで、適当に間違えたりしながらやった。夏先生には
「やる気がない」って見えたらしくて、結構怒られちゃった。
(市井ちゃんには、バレてたか)
「私さ、後藤にだけは負けたくないんだよね。ううん、娘。全員がライバルだ
けどさ。私、後藤みたいに才能ないから、頑張るしかないんだよ。後藤と同じ
努力してたら、いつまでたっても、後藤に追いつけないよ」
えー私はどうなのよ、と圭ちゃん。
「勿論、圭ちゃんにも負けたくないよ」
「単なる負けず嫌いなだけじゃん」
ははは、と市井ちゃんは力無く笑った。
「ね、ホントに、マジでさ。市井ちゃん、明日には薬の効き目が無くなって
、39度もっと熱が出ちゃうんだよ。お願いだから、今日は中止して、
病院行こうよ」
「なんで後藤にそんなこと分かるのさ」
市井ちゃんは、いぶかしげに私を見た。
- 60 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/04(日)
14:16
- 「それは……」
ここで、言うか? 私が、未来から来たって。
頭がおかしくなった、って思われちゃうかな?
私は、唇を舐めて湿らせた。大きく深呼吸する。無理矢理、言葉を吐き出すように、
それでも小さな声しか出なかった。
「私、知ってんだ。娘。の先のこと。ダンスも、実は経験済みなの……。なんで
かって言うと、ね」
「ふんふん」
ん……? 今の合いの手は、圭ちゃん?
って、市井ちゃん、寝てるじゃん! ベタベタじゃん!
「何よ〜、なんで知ってるの? 教えてよ〜」
「圭ちゃんには教えない」
「こら後藤、私は仲間はずれか」
「そうとも言う」
「私が一番年長なんだぞ〜〜」
いいじゃん。圭ちゃんとは、これからもプッチでずっと一緒なんだから。
今は、悪いけど、市井ちゃんの方が大事。
- 61 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/04(日)
14:17
- 結局、合宿は予定通り実行されてしまった。
初日は、私がギャーギャー言って、予定よりも2時間早く終わらせて、
消灯にしたんだけど。
したら、市井ちゃん、5時には起きちゃって、ご飯なんか作ってたんだよね。
私は、8時まで寝てた。起こせよ〜って感じ。
朝のジョギングの後。
「市井ちゃん、熱計ってみて」
私が差し出した体温計を、めんどくさそうに脇に挟む。
「どう?」
「後藤の言ったとおりみたい。9度6分だって」
「バカ、市井ちゃんのバカッ」
タクシーの窓から手を振る市井ちゃんを見送りながら、私は泣きそうになっていた。
私に才能なんてある訳ないじゃん。ズルしてんだよ? 未来から来たんだから
、出来て当然じゃん。市井ちゃんが私と比べること自体、間違ってるんだよ。
- 62 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/04(日)
14:18
市井ちゃんが、脱退する、って聞いたとき、もっと修行してビッグになりたい、
って理由を聞いたとき「どうして?」って思った。
でも、こうやって、もう一度市井ちゃんと過ごして来て、分かってきた。もし
かしたら、私のせいなのかも知れない。市井ちゃんは、私のせいで、自分の中に
危機感をため込んで、それが、脱退、って形になってしまったのかも。
(私が悪いんだ)
マンションに戻って、アサヤンのカメラのない場所を探して、一人で泣いた。
- 63 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/04(日)
14:19
- 11月の終わり。
仕事が終わってから、娘。全員が集められた。
控え室に、一人一人入ってくるように言われて(ああ、今日がその日なのか)
って思った。
「なんだろね。またアサヤンがらみ? プッチに関係してることだったらやだなー」
きっと、今日の出来事も、市井ちゃんの決心に少なからず影響を与えていたんだろう。
「なんだよ後藤、表情暗いぞ」
市井ちゃんが、私の頬をペチペチ叩いた。ちょこっとラブの売り上げが好調で
、機嫌がいいのだ。
「市井さん、最初にどうぞ」
スタッフが、市井ちゃんを呼びに来た。これから、あのことを伝えるのだろう。
私はざわついてきた娘。たちを見回した。彩さんと目が合う。
私は(お疲れさまでした)って感じで会釈した。彩さんは訝しげに私を見て
「後藤、ちょっと」って私を廊下に呼びだした。
- 64 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/04(日)
14:20
「もしかして、後藤、知ってるの?」
「うん、おめでとうございます」
「おめでとうって……後藤、なにかカン違いしてない?」
「服飾デザイナー目指されるんですよね」
「うん、そう。って、それ知ってるだけでも驚きなんだけど、で、おめでとう
ってのが引っかかって」
「真矢さんです」
かっ、と彩さんの顔が真っ赤になった。
「そそりゃ、付き合ってはいたりしたりするけど、その、おめでとうっ
てのは、まだ──」
あわわわ、とひとしきり混乱後、
「黙っててよ」
と少し低い声で言った。
- 65 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/04(日)
14:21
「結婚は、まだ先だったと思うんですけど」
「だから、それはまだ分からないって」
「その……ちゃんと、した方がいいですよ」
「ちゃんとって何を?」
「アレ、です」
頭の中で、指折り数えてみるに、多分、12月くらいにそれがあったのだ。
「……まどろっこしいな、ハッキリ言いなよ」
(セイフティセーックスッッ!)なんて言える訳ねえだろう! と心の中で叫ぶ。
「後藤、顔が赤くなってるよ」
「もういいです」
楽屋に戻る。
彩さん脱退を、マネージャーさんから聞かされたとき、市井ちゃんの脱退
を初めて聞いたことを思い出して、ひどく泣いてしまった。
最近、泣いてばかりだ。
- 66 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/04(日)
14:22
とりあえずここまでです。続きは夜書き込みます。
- 67 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/04(日)
14:24
- なるほど後藤号泣の理由はこういう事だったのか(痛)
- 68 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/04(日)
14:24
- >65
すごいな。確かに後藤が未来から来たってことになると
石黒の時の大泣きも説明がつく。
- 69 名前: 67 投稿日: 2000/06/04(日)
14:25
- かぶったね(笑)
- 70 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/04(日)
14:38
- 別スレで小説書いているものです。
みんな原稿用紙とかに書いてからここに書いてるんすか?自分は直書きです。その場で考えてます。
これからは原稿用紙に書こうかな・・・。
これアゲルんですかサゲルんですか?ま、今はアラシいないみたいなんで大丈夫だと思いますけど。
- 71 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/04(日)
14:42
- ということでage
- 72 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/04(日)
14:42
- 自分は、ワードとかメモ帳に下書きしたのを、
コピペしてます。でも、やっぱり誤字脱字はあるんだよな〜。(藁
直書きだと、改行とかやりにくいから。
- 73 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/04(日)
14:47
- イカシてる。おもしろい。自分も小説書いてるけど直書きです。じゃないといつまで経っても進まない…
- 74 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/04(日)
15:09
- 67と68と同じ事言うけど、あんとき後藤が泣いてたのって
市井のこと思い出してたんだ。しかしこの小説おもしろいな。
俺のなかで大ヒット中。
- 75 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/04(日)
15:46
- 下げつづけるならブックマークしとかねばイカンな
- 76 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/04(日)
17:30
- 続きが気になって仕方がない
石黒の時のごま号泣の裏にこんな事があったなんてな・・・(イタ)
- 77 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/04(日)
19:52
12月に入ってすぐ。
ちょこっとLOVEの、オリコン順位が発表された。
(知ってたけど)初登場一位。
市井ちゃんと圭ちゃんは、すっごく喜んでた。
「後藤、嬉しくないの?」
「ん……嬉しいよ」
(市井ちゃんが、喜んでくれてるのが嬉しいな。ずっと娘。にいたい、って思って
くれたら最高なんだけど)
さて、これから娘。の忙しさはピークに達する。
ラブマが売れたせいで、スケジュールが殺人的になってきたのだ。『恋ダン』の
収録もそろそろだし、紅白も待っている。
- 78 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/04(日)
19:53
スケジュール表を見る。
2週間後に、今年最後のオフがある。(その間、オフはない(涙))来年に入っても、
シャッフルだ何だでなかなか休みがとれなくなる。
「ね、市井ちゃん。今度のオフにさ、市井ちゃんのところに泊まりにいってもいいかな?」
「お、いいね〜。オリコン一位記念に、プッチの3人でパーティしようか」
「圭ちゃんはダメ」
「え? なんで?」
「市井ちゃんに、大事な話があるの」
「お、おう。そうか」
最近、市井ちゃん、男言葉をよく使うようになった。かっこいい。
なんだか、ドキドキする。
- 79 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/04(日)
19:54
「おじゃましま〜す」
「いらっしゃい。外、ひどい雨だったっしょ。タクシーで来たの? うっわ、
なんでそんなに濡れてんだよ、風邪引くぞ。お風呂入ってきなよ」
湯上がりの市井ちゃんが、お出迎えだ。髪がぺしゃんとなってて、横分けになっている。
男前だ。
お風呂から出てくると、私が着てきたトレーナーが無くなっていた。
「市井ちゃ〜ん、私の服、どこいったの?」
「それね、濡れてたから洗っちゃった。私の服、置いといたから、そっち着てなよ」
「……」
『娘。命』と習字? で大きく殴り書きされたTシャツ。
「なにこれ、だっさ〜い」
私がそれを着て出ると、キッチンからひょいと顔を出した市井ちゃんがおなかを
抱えて笑い出した。
「それ、それさ(ひゃはははっ)まだ、私もさすがに着れ(はははっ)ない、
ないんだよね、それをごと、後藤が着て、着てひーひゃひゃっ」
「もー、笑い方が和田さんになってる〜〜」
ふくれっ面で、私もキッチンに入る。
- 80 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/04(日)
19:54
市井ちゃんは、結構料理が上手だった。
半分は、スーパーで買ってきた出来合の品だったけど、テーブルいっぱいに美味し
そうな料理が並ぶと、それだけで口元が弛む。ちょっぴり、お酒もある。ハーフ
ボトルのワインだ。
「後藤ん家はさ、料理屋やってんじゃん? それに比べりゃマズイかも知んないけどさ。
……マズかったらゴメンね」
丁度、口の中一杯に頬ばっていたので、ぶんぶんと、首を振って答えた。
もぐもぐもぐもぐもぐ。
「ひぇんひぇん、おいひーよ」
ごっくん。
「ありがと。後藤もかわいーよ」
ぼん、と音を立てて、一気に顔に血が上った。
「なななにを全然カンケーないじゃん」
「んーん。なんとなく、そー思っちゃったんだなあ。後藤、顔赤いぞ。俺に惚れたな」
「お酒を飲んだからなのです」
「あー、未成年はいけないんだぞ」
「市井ちゃんだって、未成年じゃんか」
- 81 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/04(日)
19:55
幸せな時間。
このまま、ずっとずっと、一緒にいれたらいいな。
市井ちゃんと、ずっと一緒にいたいな。
夜の12時。
市井ちゃんの部屋。
「うっわー、これ、全部レコードなの?」
「うん、まだそんなにないんだけどさ。レコードの音って落ち着くんだよね。
昔の曲をレコードで聴くと、雰囲気あっていいよ」
ふーん、さすが市井ちゃん。趣味が渋い。
ふと、一枚のレコードのタイトルが目に入った。
『時を駆ける少女』って書いてあった。
(なにこれ、私のことじゃん)
「ねーねーねー、これ聴きたい聴きたい〜」
「後藤、この歌知ってんの?」
「知らなーい」
「じゃあ原田知代は?」
「ハラダトモヲ? 誰??」
- 82 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/04(日)
19:56
「後藤って、わっかんねーなー」
市井ちゃんは、ターンテーブルにレコードを置いて、針を落とした。
シンプルなメロディが、スピーカーから流れ出す。ハラダトモヲってあっさりした声だ。
『あなた、私の元から、
突然、消えたりしないでね。
二度とは、逢えない場所へ、
一人で行かないと誓って。
私は、私は、さまよいびとになる』
(なんて悲しい歌だろう)
(なんて悲しい歌なんだろう)
(本当に、これ、私のことだ)
(市井ちゃんが、私のところから、突然いなくなる……)
- 83 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/04(日)
19:56
うわ〜〜〜〜〜〜ッ!!
叫んだ。いや、叫ぶように、泣いた。
「ど、どどどうしたの後藤」
「やだやだやだ、市井ちゃん、いなくなっちゃやだ。ダメだよ、帰って来るって
言ってたけど、一度失ったら、取り戻したつもりでも、きっと、微妙に違ってる
はずでー、ってあゆも言ってんだよ〜」
「後藤、超わけ分かんねえよ」
私は、ぴたっ、と泣きやんだ。
市井ちゃんを睨んだ。
「市井ちゃん、娘。辞めようって思ってるでしょ」
「え……」
市井ちゃんは絶句した。
「すっごく悲しかったんだよ。悲しくて悲しくて、死ん
じゃうかって思った。息が出来なくて、すごく苦しかっ
たんだから」
- 84 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/04(日)
19:57
私は、バカだ。ここまできて、やっと分かった。
どうして、こんなに悲しいのか分かった。
どうして、ずっと引きずっていたのか、分かった。
私、市井ちゃんが好き、だったんだ……
泣きながら、しゃっくりが出る。私は、私の泣き方が大嫌いだ。
もっと綺麗に泣ける大人になりたい。
「イヤだよ、市井ちゃん、娘。辞めないでよ、私を置いていかないでよ……」
えっ、えっ、と嗚咽する。
市井ちゃんは、何も言わずに、部屋を出ていった。嫌われたのか、と、とてつも
なく不安になる。でも、涙は止まらなかった。
しばらくして、マグカップにホットミルクを入れて、市井ちゃんが戻ってきた。
「飲みなよ。落ち着くから」
市井ちゃんだけ、こんな大人みたいなことが出来てずるい。私は、市井ちゃんに
促されて、ミルクを飲んだ。
市井ちゃんが差し出したティッシュで、
「はい、後藤。チーンして」
鼻をかんだ。う゛ー、私だけ子どもだ。
- 85 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/04(日)
19:58
レコードはいつの間にか終わっていて、ブッ、ブッ、と針が一番内側で、
小さな音を立てていた。
「落ち着いた?」
優しく、市井ちゃんに言われて、こっくりと頷く。
「後藤って、不思議な子だな」
そんな優しい顔、反則だよ。
「いつも、後藤に同じこと聞いてたような気がするんだけど、また聞くよ。
どうして、そう思ったの?」
「知ってたからだよ」
ふてくされて、言う。
「私さ、彩っぺとあれから話したことあったんだけどさ。後藤、彩っぺの脱退の
ことも、知ってたんだよね。どうして?」
「私、未来から来たの。市井ちゃんの脱退を辞めさせるために、未来からやって来た、
時を駆ける少女なの」
「はあ?」
さすがの市井ちゃんも、ついてこれなかったようだ。
- 86 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/04(日)
19:59
「ちょっと後藤、マジメに話してよ」
「市井ちゃんは、もっとビッグになるために、海外に留学したいと思ってる。そして、
市井沙耶香として、デビューしたいって。目標は、吉田美和さんなんだよね。今の娘。
とは、方向性が違うから、だから、市井ちゃん、娘。を辞めようって思ってるの。
ううん、まだ、今の市井ちゃんは、決心が出来てないかも知れない。でも、この話、
私は市井ちゃんから直接聞いたんだよ。
私がいたのは、来年の6月の世界。だから、当然、ラブマも恋ダンも、その次のシン
グル、ハピサマも歌えて踊れて当然なの。ゴメンね。信じて貰えないかな?」
市井ちゃんは、ずっと黙っていた。
「辞めないで、市井ちゃん。私を置いていかないで」
ダメだ。私は、ダメな人間だ。
ずっと、市井ちゃんの脱退を阻止するために、いろいろ考えてきたはずなのに、
いざとなったら、懇願することしか出来ない。
私は、もっと強くなりたい。
こんな、弱い人間でいるなんてイヤだ。
- 87 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/04(日)
19:59
「ごめん、後藤」
届かないの? また、私は、市井ちゃんを失ってしまうの?
イヤだ。絶対に、イヤだ。
「本当に、ごめん。でも、私、本気なんだ」
絶望感で、身体じゅうの力が抜けた。
心底打ちのめされると、涙も出ない。
「やだよ、やだやだやだやだ……」
市井ちゃんは、泣き笑いのような表情で、私を見ている。
「どうしたら、本気だって信じてくれる?」
「キスしてよ」
- 88 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/04(日)
20:00
なんの躊躇もなく、市井ちゃんは、私の唇に、唇を重ねた。びっくりして、
息を吸い込んだ。喉が、きゅ〜ん、と鳴った。初めてのキスは、冷たかった。
頭の奥が、痺れている。そっと目を開けると、市井ちゃんは、視線を私から外して、
目を細めて窓の外を見ていた。胸が押しつぶされた。
なにか、とてつもなく大きなもので全身をぶん殴られたかのようなショックを、感じた。
地面がぐわ〜ん、と揺れた。めまいがした。
私は、市井ちゃんを突き飛ばした。
「もうヤダ。何もかも、全部、イヤだ」
叫んだ。
(こんなに、こんなにも悲しいんだったら、もう娘。は辞める。私、娘。に居たくない)
- 89 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/04(日)
20:01
靴を履くのも忘れて、私は、外に飛び出した。
雨足は、さっき、市井ちゃんの部屋にワクワクしながら来た時よりも、もっと
ひどくなっていた。
顔に降りかかる雨が、もう出なくなった涙の代わりだ。
全身を濡らして、歩いた。
市井ちゃんは、追っかけてきてはくれなかった。(第2部終わり。第3部に続く)
- 90 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/04(日)
20:02
※ここまでで、原稿用紙五十枚です。長々と読んで頂けた方、お疲れさまです。
残念ながら、まだ続きます。
もう最後までのプロットは出来てるんですけどね。後は、文章に落としていくだけです。
明日からは仕事なので、続きは少し遅くなるかもしれません。見捨てないでね。
「時を駆ける少女」
一応、これまでとこれからの副題。
第1部『ターン』(後藤がラブマの頃に戻る話)
第2部『いちごま小説』(今回の話ですね)
第3部『後藤の選択』
第4部『新しい未来』
だからといって、百枚はいかないように、心して書きます。
- 91 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/04(日)
20:02
- 楽しみにしています。
- 92 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/04(日)
20:06
- 『新しい未来』 か・・・
やっぱり歴史は変わるのか???
- 93 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/04(日)
21:37
- 続きが楽しみです、いちごま話が一番いいなぁ。
- 94 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/04(日)
22:45
- 作者さん残念ながら、だなんて・・・
その逆ですよ。
全然まだまだ続いて欲しいです。
この板にきてから、こういう市井さんと後藤さんの
小説を読むようになって
なんか市井さん、後藤さんのファンでも
なんでもなかったのに
二人セット(笑)で好きになってしまいました。
ほんとこの話しおもしろいです。
できるだけ早くお願いしますね。
- 95 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/04(日)
22:58
- すげー面白いよ。
- 96 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/04(日)
23:32
- 最高のいちごま小説だ。
俺は断言する。
すっげぇ、面白ぇ。
すっげぇ、切ない。
長く続けても全然○だよ。
- 97 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/05(月)
00:01
- 俺、元々ネタの方が好きだったんだけど、これ読んで小説もいいなと
初めて思いました。2ちゃんて懐広いよなとしみじみ思う今日この頃。
個人的にモチーフが「時かけ」ってのがヤバすぎ・・・。
歌詞のところで泣きそうになってしまった。
(大ファンで、尾道まで何回も行ったよ。サントラレコードがまた良いんだ)
あれって市井が生まれる前なんだよね・・・。(83年夏)
昨日のことのような気がするがもう随分昔なんだな。
ともかく続きを楽しみに待ってます。
- 98 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/05(月)
01:17
- ここまでで50枚なんだ・・・
じゃあ150枚くらいいっても構わないね。
いちごま小説で俺のなかで大ヒットだった
「悲しい嘘」「悲しい笑顔」「悲しい部屋」「約束」
に匹敵する面白さだね、すでに。
作者さん、無理に枚数減らそうとしなくていいですよ。
納得いくものを書いてください。「我が闘争」ぐらい長くても
一向にかまいません。
- 99 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/05(月)
03:30
- 上の人と同意見でございます。
一応下げておきます。
期待してまってます。
- 100 名前: 名無し読者 投稿日:
2000/06/05(月) 04:31
- モー板名作集の方で、あげさせていただきます。
- 101 名前: 小説作者殿へ業務連絡 投稿日:
2000/06/05(月) 07:28
- ◇ モー板名作集 2 ◇
http://mentai.2ch.net/test/read.cgi?bbs=morning&key=960146227&ls=50
をご覧ください。
サーバー移転に伴う重要なことです。
- 102 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/05(月)
22:23
- 作者さんがんばってください。
すげー面白いです。
- 103 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/05(月)
22:48
- はやく続き書いてチョ
- 104 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/06(火)
00:27
- >だからといって、百枚はいかないように、心して書きます。
いきなり、約束破り。絶対に、100枚では終わりません。わはは。
- 105 名前: 名無しさん 投稿日: 2000/06/09(金)
21:28
- まだ?
- 106 名前: 黄色い狛犬 投稿日: 2000/06/10(土)
02:38
- もう完成したよ。
とりあえず、三章はここ↓http://mentai.2ch.net/test/read.cgi?bbs=morning&key=960215579&ls=10
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